マドンナ 奥田秀朗 講談社 

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著者の小説は『空中ブランコ』に続いて2冊目です。なんとなくたまにはこういう軽いものも読みたくなるのです。しかしお遊びかというと、そうでもありません。
目はしっかりとしています。ちょっと楽屋の見える作品もありますが、この短編集の中では「総務は女房」と「パティオ」がよかったです。会社に勤めていた経験があるのでしょうか。総務課というちょっと主筋とは違う道をいく会社員の心象風景を、うまく表現しています。営業マンのように華々しいわけでなく、これといった役得もない彼らが、どのようにして、生き抜いてきたのかという点にスポットライトがあたっています。
2年だけ、部長になる前の骨休みに総務課係長になった男は、納入業者との間にかなりの癒着があるのを見抜きます。
ところが納入業者はすぐに現金を封筒に入れ、彼に持たせようとします。年上の男が平身低頭、自分の立場を守ろうとします。それにどう対応するのか。ここが大きな分岐点です。2年間黙って見過ごすのか、あるいは契約書をきちんと入札して取ろうとするのか。
ちょっとやるせない話です。
また「パティオ」では人とコミュニケーションをとるのを諦めた老人に、なぜか話しかけてしまった会社員との心の交流が描かれています。人はやはり誰かとつながらなければ、生きていけないものなのかもしれません。
けっして人に弱みを見せようとはしない元商社マンにとって、パティオでの読書は楽しみの一つでした。しかし閑散としたその場所に客を誘致しようとする、ある会社の宣伝マンたち。その中の一人と、ふと会話が成立するのです。
こんなことは確かに都会の片隅で起こるなと想わせるところに、小説のうまさがにじんでいます。
直木賞をとった『空中ブランコ』は特異な作品ですが、『インザプール』がこの夏、映画化されるそうです。今、勢いにのっている作家だといえるでしょう。

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