介子推 宮城谷昌光 講談社 2005年3月

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大作『重耳』を読んだのはもう数年前のことです。重耳はいくつもの国を流浪し、春秋五覇の一人、斉の桓公のもとに身を寄せます。その後、半ば臣下の意志で、斉の国を出奔。ついに晋に戻るのです。
最後の最後まで、旅を続けた重耳の生涯を描いた作品の中に、この介子推の名前はありませんでした。
彼は重耳には見えなかった家臣の一人なのでしょう。しかし介子推は誰に知られなくても、重耳に仕えました。そのことが、この小説を限りなく透明なものにしています。
誰でもが恩賞を得たいと主君に取り入っていく中で、一人超然としていたのが、介子推なのです。
時にはその超絶ぶりがあまりにも息苦しく感じられます。しかし自分が信じた主君が、理想通りであって欲しいという、ただ一つの希望を胸に、棒術を使い、暗殺者を次々と倒していきます。
物語性が強いだけに、作者は想像を逞しくさせることができたようです。それだけに風変わりな主人公が生まれました。
介子推という人物は、中国では神の一人として扱われているということです。最後は山に入り、隠者となる道を選んだのです。
作者はいつもみごとに女性の美しさを描ききります。今回の作品では、それが母親の描写にあらわれています。
山の霊によってさずけられた棒術が次の展開を呼ぶという面白い構成の小説です。
春秋戦国時代をこれだけ巧みに書き分けられる作家は、この人の他には誰もいません。

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