東寺の謎 三浦俊良 祥伝社 2008年7月

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 東寺を訪れた際に買った本です。『東寺の謎』というタイトルからは想像できないほど、真面目ないい本です。著者はつい最近まで洛南高校の校長をつとめておられた方です。
この高校は前身が東寺高校という名でした。かなり問題児の多い学校だったそうですが、今や京都で洛南といえば知らない人はいない有名校です。
さてこの本では東寺の歴史が次々と語られます。ここに空海は10年滞在し、そのエネルギーの全てを費やして、伽藍を配置したのです。五重塔をはじめとして、みごとな仏像を安置しました。
かつては西寺と並んで建築されたことなども詳しく載せられています。しかし西寺はやがて滅び、東寺だけが残りました。
その理由は弘法信仰によるものだと筆者は語っています。東寺は密教真言世界をあらわす巨大装置でもあったのです。
曼荼羅を手本にして伽藍の配置をし、さらに大日如来を中心に全ての仏像を安置しました。金堂、食堂(じきどう)、講堂が一直線に並び、南東の角には仏舎利を納めた五重塔があります。
密教は生の中に浄土があると説きます。
美しい寺です。
これだけ広い寺の中に、誰も住んでいない時期があったというのですから驚かされます。かつてここを訪れた本居宣長はその時の様子を書き残しています。一段一段、中の扉を開けながら、最上階まで上ったようです。寺侍が快く鍵をあけてくれたところの描写などは、大変面白い話です。
この時の塔は家光の寄進したものでした。実に竣工してから113年後の話です。それまでに落雷、土一揆などが原因で四度程焼失しています。
空海が中国を訪れた時の様子や、その後日本に戻ってからの活躍など、様々な視点から楽しむことができるのではないでしょうか。空海については司馬遼太郎に『空海の風景』という名品があります。それとあわせて読んでもいいかもしれません。
どのような階層の人にも無料で学べる場所、綜芸種智院をいちはやく創設した彼の時代を見抜く目には驚かされます。
最終章には筆者の生い立ちの記が著されています。これも一読の価値があるユニークなものでした。

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