五代目小さん芸語録

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この本は実際に高座に上がって落語を演じた者にとってはまさにバイブルのような本です。
逆にいえば、あまりよく知らない人が読んでも面白くないかもしれません。
演者の細かい視点で語られた内容がこれでもかとまとめられています。
話し手の小里ん師匠が羨ましい。彼は内弟子でした。だから四六時中、師匠の芸談を聞けたのです。
後書きに嫉妬の感情すら宿したと書いている小三治師匠と、ぼくも全く同じ気持ちです。本当に羨ましくて仕方がありません。

しかしこういう形で五代目小さんの秘伝が伝えられたというのは、ある意味で奇跡に近いのかもしれないのです。
この噺はここで客が笑わなかったらダメだとか、ここまで噺をくどくやってはダメだなどと54話にものぼる噺のポイントが語られています。
一つ一つが実に精緻に示されているのです。
ああ、ここまで師匠は登場人物の心理を分析して、噺をしていたのだと納得させられます。

『大工調べ」の棟梁の性格も、志ん生の分析とは異なっています。
志ん生のは「啖呵を切りたい奴」という設定だが、小さんの解釈は「喧嘩をしたくはなかったが、大家が張った悪意の網にひっかかった」というものです。

粗忽者の噺の中でも『粗忽長屋』は一番に難しい。絶対に死んだという表現をたくさん使ってはいけない。客がこんな話があるわけがないと素に戻ったら、もうその時点で噺家の負けだ。勢いで噺を引っ張ることが大切だと説いています。
その一方で『粗忽の使者』の方が登場人物も多く、動きもあるので、どちらかといえばやりやすい。『松曳き」はかなり難易度の高い噺であるとの説も述べているのです…。

『時そば』などでもそばをたぐる仕草はある程度できればいいが、人間の造形がきちんとできていないと、客は笑わない。そばを食べていて中手が来るようだったら、それ以上そばを巧く食うなと忠告までしています…。

このように、54話の噺の一つ一つについて、実に細かな指示が語られているのです。
まさに今稽古している噺のポイントが示されているというのは、なんと幸せなことじゃありませんか。
この本を読んでいると、あらためて落語の奥深さをしみじみと感じます。
こういう芸談を身体の中にしみこませていくということが、精進そのものなのかもしれません。

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