こういう了見 古今亭菊之丞 WAVE出版 2010年11月

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By: rodrigo
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 今年はたくさん落語関係の本を読みました。図書館の棚に並んでいる本はほぼ読破したような気がします。芸談を中心としたものはやはり奥が深く、読んでいてもなるほどと思わされるものが多かったです。
さて今年最後になって「了見」という言葉をタイトルにした本を2冊読みました。一つは『落語家の了見』浜美雪著ともう一冊がこの本です。
正直な感想を言えば、ここまで書いてしまっていいのかということでした。今まで読んでいた本とはかなり趣きが違っています。一つは前座修行時代の話。そして真打ち昇進にからむ金銭の話です。
一人真打ちという異例の昇進だっただけにかかったお金も半端ではありません。ホテルでの披露パーティにかかった費用が1400万円、ご祝儀も同額程度あったとのことですが、全ての披露興行中、楽屋にいる関係者全員に折り詰めを出し続け、さらには手伝いの前座の打ち上げなどにも10万円単位で祝儀を切り続けたといいます。
その赤字が数百万円。母親はそのために生命保険を解約してくれたそうです。また誰とは書いてありませんが、他の噺家にいたずらをされ、折り詰めのごはんを真ん中だけ食べて、そのまま同じように包み直したものがある師匠のところに偶然運ばれ、大騒動になった一件なども包み隠さずに書いてあります。
あきらかにいたずらのレベルを超え、嫉妬がうずまく芸人の世界を垣間見せる事件でした。菊之丞はすぐさまその師匠の家へお詫びにでかけますが、そこでの話も一読の価値はあります。
何度やめようかと思ったとありますが、今の自分があるのもそうした日々のおかげであると綴る噺家の心境に嘘はないと思われます。
やめたら古今亭の亭号が使えない。どんなことがあってもプロとして生きていくためにはこの亭号が必要なのだと歯をくいしばって頑張った姿が彼の現在なのでしょう。
借金を返すために一日6席こなしたこともあるとか。
ギャンブルがもとで、父親が蒸発してしまった話など、知らないことがたくさんありました。人を笑わせるには、人の哀しみがわからなければなりません。これも厳しい現実です。
ここまで書いてしまった菊之丞師匠のこれからの生き様をすなおに応援したい気持ちでいっぱいになりました。

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