淳之介の背中 吉行文枝 

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 つい先日出版されたばかりの本です。発行元が有限会社港の人とあります。はじめて聞く名前です。
ここに描かれているのは、吉行淳之介と夫人文枝さんとの結婚生活の様子です。といっても彼は、途中から女優宮城まり子のところへ突然行ってしまいました。そのあたりのことは様々な本に記されている通りです。
この本の記述はあくまでも、結婚当初の10年間だけのものに限定されています。
吉行という作家を語ることは、なかなかに難しいです。彼の持つ独特な乾いた文体の説明は、そう簡単にできるものではありません。
しかしぼくの大好きな作家であることにかわりはないです。彼の文学放浪記や、その後に記されたエッセイはほとんど読みました。黒い小さなハードカバーのエッセイ全集は、エスプリと知性にあふれています。何も読むものがないときは、いつもこの作品集を読みました。
こういう風に生きていけたらいいと思わせる要素がたくさんあったからです。
さてこの本では結婚した頃の彼の日常の様子が、まるで詩のように描かれています。なんとも淡い文体でありながら、そこに一本芯の通っていることに感心しました。少しだけ、小川国夫の初期の作品を連想させました。
実に味わいのある本です。そこからふっと彼が出てきてもおかしくないくらいの実在感があります。本当にぽつりぽつりと語られ、それが少しも違和感を感じさせません。薔薇販売人という小説が書かれるにいたったエピソードなどは、初めて知るものでした。
彼は学校の文化にはなじまない作家です。しかし明らかに、強い芯を持った本当の文士だと思います。
中に載せられた写真が、いかにも当時を彷彿とさせます。彼のように生き、すっと音もなくこの世から消えていきたいとしみじみ感じました。

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