中国人の愛国心 王敏 

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この本は日本文化が今どれくらい中国に入り込んでいるのかというところから、始まっています。著者は現在法政大学で教鞭をとっておられる方です。
村上春樹の小説はどれも翻訳され、ベストセラーですし、音楽、テレビ、アニメはごく自然に流入しています。クレヨンしんちゃんなどというアニメは誰も日本製などと思ってはいないという話も紹介されています。
それなのに近年「愛国無罪」と書かれたプラカードをもってのデモや、日本製品ボイコット、日本食レストランへの投石などが起こりました。彼らの抵抗にはどのような根拠があるのでしょうか。
改革開放の流れの中で、今日の中国は外国文化の摂取に懸命です。しかし同時に摩擦も次々と起こっています。
この本は中国人にとっての愛国心が、日本人のそれとはやや異なるということを解説しています。
中国では「中国古来の文化を守ること」「侵略者への抵抗」が愛国の基本とされ、「侵略者との妥協」は売国奴の汚名を着せられるのです。
日本人は外国の文化を取り入れるのがものすごく早く、また上手なせいか、あっという間に明治維新を成し遂げました。
しかし中国人はつねに歴史の流れをタテにとらえるといいます。どんなにすばらしいものが目の前にあったとしても、中華(世界の中心)にある彼らの食指は動きませんでした。
それがアヘン戦争や、幾多の戦争の敗因とも言われます。中国人は彼らの文化を尊重してくれる民族なら、少々のことがあっても受け入れてきました。多民族で構成されている国家だからなのです。
ですから清王朝は認めても、元王朝は認めようとはしません。モンゴル人は中国古来の文化を尊重しなかったからです。
そういう意味でいえば、日本は改名をせまったり、神社を建てたり、彼らの文化を真っ正面から否定することをやってしまいました。
しかし戦後、多くの日本人民が結局は戦争の犠牲者だったという中国政府の方針をなんとか理解しようとしたのです。しかしそれもA級戦犯の靖国合祀という行為の前に、裏切られたと実感したのでしょう。その時の落胆は非常に深かったと想像されます。裏切りととったとしても不思議ではありません。
中国人は決して過去のことを忘れない民族性をもっています。日本人のようにどんな人でも亡くなれば、みな仏になるという考え方はしません。何百年たっても国家に反逆した人は悪人なのです。
ちなみに愛国者の代表とされる南宋の武将岳飛は、金軍の侵略に対して徹底抗戦を主張しましたが、金との講和をもくろむ秦檜に無実の罪に陥れられ殺されました。実に900年前の話です。
今も後ろ手に縛られ、跪いている秦檜と彼の妻の像には唾が吐きかけられるということです。また彼の子孫は今でも裏切り者の汚名を返上できず、肩身の狭い思いをして暮らしているとのことです。
この一節を読んだ時、日本人との差をしみじみと感じました。彼らが中国政府の説明をなんとか飲み込もうと努力した気持ちが感じられるだけに、いっそうつらいものがあります。
愛国という表現が同じだけに、ついどうしてそこまで反日的になるのかと考えがちですが、根本は全く違う民族なのかもしれません。
しかし経済の面で、あるいは文化交流の面で両国の絆がますます強いものになっていることは、誰にも否定できません。戦争で大陸に残された孤児たちを、貧しい生活の中でなんとか育ててくれたのも、同じ彼らなのです。
ヨコに広げてものを考えようとする日本人と、タテに歴史に思いを馳せて思考する中国人の差をあらためて実感しました。

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