未来への記憶 河合隼雄 岩波書店 2001年1月

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 以前に一度読んだことがあります。しかしここのところ、少し心理学的なものを読みたいと思うところがありまして、ユングを積極的に紹介し、箱庭療法を日本に広めた河合さんの本を読みなおすことにしました。
自伝ですから、最初の方はほとんど出生にまつわる話と、親、兄弟の関係が綴られています。一言でいえば、大変に恵まれていたなということです。それは経済的にというのではなく、精神的に自由で、自分でものごとを判断する力を親に養ってもらったということです。
人間好きな彼は、その後いくつかの学校を転々とし、数学を学びます。将来は高校の教員になろうと決めていたようです。
実際に数年間、私立高校で授業をしました。しかしここからが運命ということなのでしょうか。
京大の大学院に籍だけをおいていたところ、その頃から統計的な手法を使う心理学というものが、登場してきました。さらにはロールシャッハという心理分析法も紹介され始めたのです。
これは面白いように、人間の心理を解き明かす方法でした。元々、人間好きな河合さんは、どうしてもこの分野の勉強をしたくなります。それで天理大学に職を得て、さらにアメリカへ渡り勉強する決意をしたのです。
フルブライトに合格し、UCLAの大学院でセミナーを受けます。しかし学びたかったユング派の心理学は、アメリカではまだ少数派でした。ところが、それだけ勉強したいのならという訳で、スイスのユング研究所から奨学金をもらえるように推薦状を書いてくれる先生がいたのです。
ユング研究所での生活はアメリカでのものとは、全く違いました。何人もの被験者を持ち、自分で実際に分析を試みなくてはならないのです。その総時間数が最終的には、大きな意味を持ちます。さらには研究所の教授達による口頭試問にパスしなければなりません。
家族を伴って、異国の地に赴き、さらには馴れない精神分析を自分の母語でない言葉で行うのですから、その難しさは十分に想像がつきます。
最後の資格審査会でも大激論となり、もう資格はいらないと喧嘩までしてしまう場面もありました。その後、箱庭療法も学び、日本に戻ってきてからの活躍は、誰もが知るところです。
人のこころとは何であるのか。その答えをもう少し、彼の著作を読みながら、考えていきたいと思いました。
しかし人間の運命というのは、不思議なものだとしみじみ感じます。

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