人生を肯定するもの、それが音楽 小室等 岩波書店 2004年4月

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 小室等といえば、ある年代から上の人には懐かしい響きをもっています。六文銭というフォークグループのリーダーでもあり、後には一人で活躍しました。
その彼がさまざまな人々との出会いの中で成長していった話です。
一番愉快だったのは、彼がまだ無名の頃、突然谷川俊太郎の別荘を訪ねるところです。
若者達4人であなたの詩に曲をつけたから、聴いてくれないかと主張しにでかけたのです。さすがの詩人もこれには驚いたとか。それでも水が砂漠に染みこむように心の中にしみていったと谷川は後に書いています。
小室等は自分の言葉で歌いたいとずっと思っていました。そこに日常の言葉を大切にする谷川との出会いのきっかけがあったのです。
アメリカフォーク巡礼の旅では、オデッタ、ピート・シーガー等との鮮烈な出会いがありました。
その後、渡辺貞夫との邂逅もあります。ジャズのメソッドも知らない若者に彼はていねいに教えてくれました。
簡単なコードだけで演奏されることの多いフォークの対極にあるのがジャズです。その関係から、たくさんのミュージシャンとも出会いました。坂田明、林英哲、中村八大。さらにはリービ英雄、別役実。
『雨が空から降れば』という曲は別役が彼らのために書いてくれた詩です。
しかしなんといっても一番大きな影響を与えたのは武満徹でした。渋谷ジャンジャンでのコンサートに日本を代表する作曲家が聴きにきてくれたのです。このあとはなだれをうったように彼との交流が始まりました。
酒の席で完全に酔って動けなくなった彼を介抱したことすらありました。作曲家の心のうちには、大いなる混沌が宿っていることを知らされます。
この本の最終章は音楽の神が突然舞い降りてくる瞬間の話です。ミューズといってもいいかもしれません。それはつねに自分に挑戦し続けた人間にしか訪れないものだと彼はいいます。その時をひたすら待ちながら、今日もギターを持つと宣言しています。
あいつはいつ来るかわからない。
だからこそ、待ち続けるというフレーズは、どこかベケットの『ゴドーを待ちながら』を彷彿とさせる瞬間でした。

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