今や、前座という言葉はどこでも通用する。噺家になるにはどうしても通らなければならない通過儀礼みたいなもんか。
いいかげんなぼくなぞには、とてもできません。
すぐにしくじって破門でしょ。
昔は出世をすると、収入が減るのでむしろ降格をしてもらい、万年前座なんて人がいたそうな。
今では語りぐさです。
さて前座修行はつらい。3年から4年。我慢と忍耐の日々だ。
5人の噺家のそれぞれについては、本を読んでもらうとして、師匠との関係がみんな違う。そこがなにより面白い。
小三治は下駄の歯の横っつらまで拭かせる師匠について、懐かしがってすらいる。
昇太はなんにもさせなかった柳昇をこれまた懐かしがっている。
正蔵は父親三平になぐられた思い出を、嬉々として話している。
志らくは矛盾に満ちた師匠の生き方に惚れ込んでいる。
円丈はやっぱり噺家圓生の芸を尊敬している。
みんな違ってみんないいというやつか。
あれやこれやと、探っていると、どうも前座修行にはいくつかのセオリーがあるようだ。
しかしそんなことはどこにも書いてない。
だからマスターするのは大変だ。
前座、心得の事
前座は人間にあらず芸人にあらず前座なり
前座に幸せはない。あるのは修行のみ。
前座に言い訳する権利はない、ただ謝る!
世渡り上手の前座は仕事を貰い、賢い前座は芸を盗む
良く働く名前座に大成なし
好き嫌いを出すな!
お茶を何度でも出せ!
明るくハキハキが一番
各師匠の性格に合わせろ
お礼は二度言うべし
忘れ物があったら追っ掛けて行って渡せ
間があれば高座を見よ
言い訳はするな
出がらしのお茶を出すな!
ダジャレは禁物!
前座の先をいつも考えてろ!
まあ、こんなとこかな。
わかってるからって、ちゃんとできるわけじゃございません。念のため。