西行鼓ヶ滝

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「西行」とも「鼓ヶ滝」とも言います。最近は「鼓ヶ滝」という題で演じられることが多いような気がします。
元々は上方の噺です。

テーマは西行にちなんで和歌ですが、それが微妙に推敲され、変化していくところがこの噺の聞き所でもあります。
摂津の鼓ヶ滝に来た西行。
最初につくった歌は次のようなものでした。

伝え聞く鼓ヶ滝に来てみれば沢辺に咲きしたんぽぽの花

ところが近在の家で宿をと頼んだところ、そこの翁、婆、娘がそれぞれ次のように歌を推敲していきます。
ここがこの噺のポイントでしょうか。
それも「鼓」「来て」「沢辺」という表現にあわせての作歌ということになります。

伝え聞くを鼓ヶ滝の鼓にかけて、音に聞くとした方がよくはないかと翁に言われ 、

音に聞く鼓ヶ滝に来てみれば沢辺に咲きしたんぽぽの花 となおしました。

次に婆が「鼓」「音に聞く」にひっかけて「打ちみれば」にしたらもっと面白いかもしれないというので、

音に聞く鼓ヶ滝を打ちみれば沢辺に咲きしたんぽぽの花 としたのです。

最後に娘がここは鼓ヶ滝なので、沢辺よりも川辺としたほうが良いと言います。川と皮の掛詞です。そこで…。

音に聞く鼓ヶ滝を打ちみれば川辺に咲きしたんぽぽの花 となりました。

西行、自分の歌を次々となおされ、さすがに言葉もありませんでした。
実はこの三人、和歌三神(住吉明神、人丸明神、玉津島明神)の化身で、慢心した西行を戒めるために現れたというのがオチになるわけです。

ちなみに西行は本当にこの歌を詠んだのでしょうか。
たんぽぽという花は昔、何と呼ばれていたのでしょうか。

ちょっと気になり調べたら、たんぽぽは和名抄という本の中に古名がありました。
かつては田菜(たな)と呼ばれていたようです。
田んぼの脇に咲いているごくありふれた花というイメージが、この言葉からよく伝わってきます。
あるいは別名をフジナとも呼んでいたとか。

西行は吉川英治の『新平家物語』などにも重要な人物として出てきます。
佐藤義清(のりきよ)という名の北面の武士でした。
武家台頭の時代とはいえ、まだ低い身分で、宮中の護衛兵だったのです。
歌に対する愛着がよほど強かったのでしょう。
やがて出家して西行と名乗り、『山家集』を世に問うています。
後の松尾芭蕉などにも大変慕われた歌人です。

しかしこの落語に出てくるような歌をつくったという記録はありません。

音に聞く鼓が滝を打ちみれば川辺に咲くや白百合の花

という歌を詠んだという言い伝えもありますが、所収された本は確認されていません。
おそらく民話のレベルでの創作に違いないと思われます。
彼の代表作はたくさんありますが、一番よく知られている歌としては、次のようなものがあります。

願はくば花の下にて春死なむそのきさらぎの望月のころ

吉野山こずえの花を見し日より心は身にもそわずなりにき

さすがにたんぽぽの歌とは歌格が違います。
あくまでもこの噺は、西行という歌人がいかに人々に愛されていたかを示すよすがと考えた方がよさそうです。

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