今から足かけ14年も前のことになります。享年63歳でした。
あまりにも早すぎる彼の死は、多くの芸人の心に大きな穴をあけてしまいました。
その彼の一番いい時代を見ていたのは、なんといっても側にいた弟子たちです。
実兄にあたる金原亭馬生の弟子、伯楽が古今亭志ん朝について書いたのがこの小説です。
金原亭伯楽は本当に彼のことが好きだったのでしょう。
憧れていたといった方がいいかもしれません。
独演会があると、志ん朝は前座に必ず彼を使ってくれました。
ゴルフコンペにも連れて行ってくれ、日航落語会ではヨーロッパを何度も一緒に回りました。
弟子の目に、志ん朝という男がどういう風にうつったのでしょうか。
女性との艶聞も出てきます。
どこまで本当なのか、わかりません。
一人は本当に結婚しようと思った岡田時子。
右翼の大物の養女でした。
彼女はしばらくして、自殺をしてしまいます。
その理由もこの本には赤裸々に書き込んであります。
もう一人が叶恵美。
柳朝と二人でやっていた二朝会によくきてくれた客でした。
その彼女と偶然、パリで再会。
ドイツを一人で回ろうと予定していた志ん朝はパリで彼女との逢瀬を楽しみます。
この二人についての記述はどの程度信用できるものなのか。
著者に訊いてみるより他に方法がありません。
その他、芸の上での師匠、三木のり平との愉快な逸話の数々。
彼を自分の師と仰いでから、落語の上達もはやまります。
のり平の芸に対する厳しさは、他に類をみないものでした。
さらには協会分裂騒動の内幕。
圓生を噺家の師と尊敬していた志ん朝の苦悩がみごとに描かれています。
弟子たちが寄席に出られなくなってはいけないと思い、苦しむ様子がよくわかります。
本当のところはどうなのかと訊きたい箇所がいくつもありました。
最後の章ではガン告知をされてからの態度が淡々と綴られています。
結城昌治がかつて上梓した『志ん生一代』とあわせて読み比べてみると、親子とはいえ、その性格の違いに唖然とします。
それもふくめて、興味深い本でした。