弱き者の生き方 大塚初重 五木寛之 毎日新聞社 2007年6月

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 大塚初重という人を知ったのは、この本が初めてです。日本考古学の第一人者として、その世界では大変広く知られた研究者だそうです。しかし今回、ぼくが興味を持ったのは、彼の弱き者としての生き方に対する共感があったからです。
戦争中、二度も輸送船が撃沈され、それでも漂流して生き残ったという数奇な運命を持っています。その時、どのようにして助かったのかということを、今まで誰にも打ち明けなかったそうです。
それというのも、自分がいかに非情な人間であるのかということを身にしみて感じていたからでしょう。自分の足にしがみつく人間を蹴落としてでも、生き残ろうとした姿に幻滅と哀しみを感じ続けていたといいます。
船底に落ちていく戦友を見限らなければ、自分は生き残れなかったのです。そのことは五木寛之にもあてはまります。満州からの引き上げの中で、ロシア軍の行う数々の狼藉を見てきました。
その中にはとても言葉にはあらわせないつらいものがあったといいます。
なぜそのことを小説に書かないのかという人もいるそうですが、どうしても生々しすぎて書けないと彼は言います。
一生、胸の中に秘めて生きていく以外にないという覚悟を持っていると述べています。人間はなんと弱いものか。他者に対しての思いやりを呟きつつ、その一方で、自分の利益だけを優先する。そのことがいやというほど骨身にしみているからこそ、書けないことが山のようにあるのです。
二人の対談を読みながら、自らを弱い者として規定し、そこからどうしたら生きていけるのかという、ごく素朴な文章に心打たれました。
戦争から戻った後も大塚は苦学をし、夜学から這い上がってきたといいます。血を売って生きなければならなかった五木にもそれはあてはまるでしょう。
時代が悪かったといえば、それまでですが、しかし人は根本的にいつの時代も同じものであると思います。辛いことを直視する人間でありたいという二人の対談は、読んでいてすがすがしいものでした。

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