ザ・前座修行 稲田和浩 NHK出版 2010年1月

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 出版された時から読みたいと思っていた本です。タイトルの前段に「5人の落語家が語る」とあります。
前座というのは一人前の噺家になる以前の修行期間をいいます。この時期をどのように過ごすかによって、その後の芸が大きく変化するとも言われている大切な時期なのです。
柳家小三治、三遊亭円丈、林家正蔵、春風亭昇太、立川志らくの5人が、それぞれの前座時代を語っています。
前座の仕事にはこれといった決まりはありません。師匠の家の掃除にしても小三治が入門した頃は、師匠の下駄の歯を全てから拭きするところから始めたそうです。
洗濯機も修行にならないからといって買わなかったとか。なぜこんなことまでしなければいけないのかといつも考え続けたそうです。おかみさんには絶対服従でした。なぜと訊くことも許されなかったのです。
「無精しないでちゃんと手を使え、身体を使え」とひっぱたかれて覚えていった家事が、ある時から気持ちがいい、楽しいと感じるようになったといいます。下駄の歯をきれいに磨き終えたあと、嬉しさが心に走ったのです。
師匠柳家小さんはよく噺の中に、全ての人間性が出ると説いたそうです。噺家の了見がお客には透けて見えると言いました。
ずるい人間にはずるい噺しかできないというのです。その人間になりきるための修行であったことをいつも感謝しているという談話を読みながら、これだけのことをしている社会はもういくつもないと感じました。
正蔵などは自分の父、三平の弟子になったことで、それ以降、よく殴られたそうです。客の前にいる時の林家三平とは違う師匠がそこにいました。他人よりも厳しく育てなければ、他の者への示しがつかないと父親は感じたのでしょう。
今、自分の息子を弟子にして、父親だった三平の苦しみがよくわかると書いています。甘やかして育てることが芸の世界ではもっともいけないことと言われています。いわゆる旦那芸で終わってしまうのです。プロになるための厳しさをしみじみと感じました。
談志の教育法、圓生の人生観など、実に面白い前座時代の話題に満ちています。人生のあらゆる場面に通じるであろう、深い内容ばかりでした。

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