生きる意味 上田紀行 岩波書店 2009年1月

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By: José Moutinho
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 生きる意味が空中分解しつつある時代、それが現代なのかもしれません。右肩上がりの社会が終焉を迎え、人々は右往左往しています。
それまでは他人の欲しいものが、自分の欲しいものでした。三種の神器にはじまるものの獲得競争は、終わりを告げつつあります。それはものだけに限りません。職業の選択についても、学校の選択についても同様です。今までは人々が望むから、自分も望むという構図が完全にできあがっていました。
自分が何を欲しているのかあるいは、自分が生きる意味は何であるのかということなど考えなくても、経済成長の神話の中では、有効に機能していたのです。
しかし現在の状況はどうでしょうか。バブルの崩壊すら、とうに昔のこととなり、真に私がほしいものは何であるのかということを真剣に考えないと、どうにもならないところまできてしまいました。
人間は一人一人がかけがえのない存在です。しかしそれさえも今では疑問符がつくようになりました。誰でもいい透明な存在として「交換可能」な個人が跋扈しています。労働市場では、派遣という形でそれが実に顕著なものとなりました。
自分で自分が見えない時代です。なんのために生きているのか、それさえも分かりません。実感がないのです。どこにでもいそうな「私」の大群が都市にはあふれています。自尊感情すら持てない人々の群れです。
グローバリズムという言葉の中に埋没していく個人。あるいは個人責任という表現の中に沈んでいく人間。
それらをどこでつなぎとめたらいいのかというのが、この本の趣旨です。一人一人が世界の中心になるにはどうしたらいいのか。答えなど簡単にはみつかりません。効率優先の社会をどこかでとめる手立ては何か。それを考えるためのヒントがいくつも本書の中には散りばめられています。
現代をともに考えていくための一助として、薦めたい本です。同時に解決への道があまりに遙かで遠いことを実感させられもします。しかしそれがありのままの現代という時代なのかもしれません。

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