庭の桜、隣の犬 角田光代 

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By: Ralph Arvesen
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最近、あまりこの欄に本のことを書かなくなりました。読んでいない訳ではないのです。つい日記の方ですませてしまう傾向が強くなりました。反省しています。
久しぶりに角田光代の小説を読みました。
群像に1年間連載したもののようです。
内容はまさに家族と夫婦。
主人公はテーゼがないと呟きながら、自分の芯がないことに気づきつつ、暮らしています。
どうにもならないシチュエーションが延々と続きます。舞台は多摩プラーザとつきみ野。新興住宅地の典型でしょうか。夫は会社の帰りが遅くなり家に戻れないと、アパートを借ります。鍵だけは預かるものの、妻は住所を聞くこともありません。
他者に対する興味を失いつつあるという以上に、命の形も失われつつある現代の状況をうまく描写しています。
読みながら、安部公房の小説を思い出しました。
登場人物も実家の父母、夫の母とごく日常の人々ばかりです。
彼らも自分の生の場所を失いつつあります。
唯一、ビジョンを持っていそうな存在が、会社のアルバイト社員、和田レミです。
アパートの部屋に押しかけてきて、主人公の夫と交わす会話には妙なリアリティがあります。
何も起きない、しかし不安だけがつねに増殖していくという現代の構図がこれでもかと描かれていきます。
角田光代は日常に潜む狂気をうまくあぶり出しています。久しぶりに、不気味な小説を読みました。
女性にしか書けない類いの内容です。男が書くよりもずっと豊かで、深いものだと思います。
彼女の目はさらに深化を続けるに違いありません。
こういう形でしか、今を表現できないところへ、きているのかもしれません。
今や必需品となった携帯電話も、電源さえ切ればコミュニケーション不全を完結する一つの装置になり得るのです。

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