柳家さん喬の本を読みました。
タイトルは『噺家の卵煮ても焼いても』。
不思議な題です。
なんとなくマクラをずっと聞かされているような味わいかな。
師匠小さんのところへ入門してから50年が経つとか。
まことに月日の過ぎるのははやいもんです。
なんとなく勉強がいやになって、将来は噺家になりたいと思ったあたりから綴られています。
実家の洋食屋さんに食事によく来ていた人が、小さんと親しい仲でした。
人生はこういう縁で結ばれているんだ。
初日から小稲という高座名をもらって、どれほど嬉しかったことか。
おかみさんが名前をつけておやりよ、と師匠に進言してくれました。
その後、数々のしくじり。
師匠と一緒にでかけた旅の思い出。
自分の弟子11人の人となり。
一人一人が目に浮かぶように綴られています。
アメリカ・バーモント州ミドルベリーでの日本語教室の様子。
そこでの落語の授業風景。
ついでに沖縄やパリでの活躍ぶりも…。
一番印象に残ったのは、師匠小さんの最後の高座です。
笠碁をやって終わりかと思った時、急に碁泥に入ってしまいます。
どこで幕を下ろしたらいいのか。
楽屋全体に緊張が走ります。
噺の中で小さんがパチリと碁石を打った瞬間、さん喬は急いで幕を下ろしたそうです。
あとで師匠は「さん喬、ありがとうな」と呟いたとか。
これが小さんの現役最後の高座でした。
師弟の関係がよく出ているいい本です。
心があたたかくなる。
いつかまた読み返してみます。